こんにちは、三原です。
「ドリブルドライブモーション」とは、バスケ界の最新オフェンスの戦術です。その名の通り「ドリブル」をメインに攻めていく方法であり、特徴は「とても簡単」ということです。このページでわかりやすく解説します。特に中・高生にはすごく役立つと思い、ここで紹介します。
この記事を読むメリット
|
時間がないから早く読みたい!という方は、マーカーの色の部分と図だけパッと見てくれれば、つかめると思います。
YouTubeも埋め込みますから、音声だけでも聞き流してくれてもOKです。
ドリブルドライブモーションができるまで
このオフェンスは、元はヴァンス・ウォルバーグというアメリカの高校のコーチが考案したものです。ウォルバーグさんは地元では有名なコーチでした。常に自分のチームを勝たせるために努力を惜しまないコーチでした。
ある年、ウォルバーグさんのチームには「とてもスピードがあるが背が小さい2人のガード」がいました。この2人はどこと試合をしてもスピードでは負けずに、スペースさえ広ければドリブルでゴールまでドライブしていくことができました。逆に長身選手はゼロ。背の高いセンターは誰もいない。そんなメンバー構成でした。ふつうはセンターをポストに立たせて、確率の高いゴール下でシュートさせる戦術を立てるのですが、このメンバーではやりたくてもそれができません。そこでウォルバーグさんは試行錯誤を重ねて、ドリブルドライブモーションの原型となるオフェンスを作り出します。そしてそれを「AASAA(アッサー)」と名付けました。
AASAAとは「Attack(アタック)」、つまりドリブルでの攻めを繰り返して、攻め切れなければ「Skip(スキップ)」パスを飛ばす。アタック、アタック、スキップ、アタック、アタック、とにかくドリブルで行け!という計画されたオフェンスです。このチームにぴったりの戦術で、大成功を収めました。ウォルバーグさんの高校は地元では噂のチームとなったのです。
このウォルバーグさんはとても勉強熱心な方で、自分たちの大会がない期間は全米を移動して、上のレベルのチーム、特に大学のチームの練習を見学に行っていたそうです。実際に最先端のバスケを学ぼうと、大学のコーチに連絡を取り、足を運ぶわけです。ある日、名門のメンフィス大学に行き、ジョン・カリパリさんの練習を見せてもらった時のことです。勉強に行ったはずのウォルバーグさんが言われた一言は、「私はあなたを知っていますよ。アッサー、とても良いオフェンスらしいですね。私にアッサーを教えてくださいよ」。逆にカリパリさんのほうが教えてくれと言ってきたのでした。
カリパリさんは言わずと知れた名コーチです。NBAのヘッドコーチを務めた経験もありますし、現在はケンタッキー大学のヘッドコーチです。ケンタッキー大学と言えば、アンソニー・デイビスをはじめとして、NBAに何人も選手を輩出している超名門です。そのレベルのトップコーチに、いち高校のコーチであるウォルバーグさんが「逆に教えてくれ」と言われたのです。当時のメンフィス大学には新入生でデリック・ローズがいました。ローズはドリブルの1対1が優れた選手で、のちにNBAのMVPを取るほどの能力の持ち主です。彼を中心にオフェンスを組み立てたかったカリパリさんは、ドリブル主体の「アッサー」に目をつけたのです。カリパリさんは「アッサー」を完全理解した後、2人でさらに改良をして「ドリブルドライブモーション」とわかりやすい名前に付け替えます。結果は大成功。NCAAトーナメントで優勝こそできませんでしたが、メンフィス大学の勝率は全米1位を記録したのです。
ここで私の私見です。この話でウォルバーグさんが素晴らしいのはもちろんですが、私はカリパリさんの人格にも感銘を受けました。NBAのコーチまで務めたカリパリさんがいかに努力家か、よくわかる気がします。自分の経験が豊富にもかかわらず、常に新しいことを探し求める姿勢。そして、自分のためなら誰からでも教えを受ける謙虚さ。さすが超一流だな、と思います。
このオフェンスの何がいいのか?
ドリブルドライブモーション(以下、DDM)は、カリパリの成功を機に、NBAからユースのカテゴリーまで、あらゆるチームが真似をし始めました。2006年頃のことです。なぜDDMがそこまで世界中で浸透したのか?それは本質的に優れていることはもちろんですが、「簡単だから」という理由もあると思います。
さらに、論理的な理由づけも明快です。それは「シュートの期待値」というものです。
まず、過去の試合の統計から、エリアごとのシュート確率を計算しておきます。
エリアは次の4つです。
- 制限区域内の2点 → 60%
- 制限区域の外からの2点 → 40%
- 3点シュート → 30%
- フリースロー → 70%
そしてこれをもとに「期待値」を計算します。
たとえば、制限区域内のシュートは決めれば2点です。そして確率は60%です。そこで期待値の計算としては、
2点×0.6=1.2
つまり、制限区域内のシュートは、入っても入らなくても「打てば1.2点分の価値が期待できる」ということです。
これと同様に計算をすると、
- フリースロー 2×0.7=1.4
- 制限区域内 2×0.6=1.2
- 3点シュート 3×0.3=0.9
- 制限区域の外の2点 2×0.4=0.8
ということは、最高なのは「ファウルをもらってフリースロー」、次に「ゴール下のシュート」ということになります。だからこそドリブルドライブで行け!という理論です。ドリブルで突っ込めばファウルももらえるし、ゴール下でシュートもできる。ということになります。
ドリブルで進んでもディフェンスが収縮してシュートできなければパスを飛ばします。このときアウトサイドシュートはノーマークになりますが、リングに近いという理由だけで2点を打つと期待値が低い、ということになります。どうせ外から打つなら、期待値の高い3点を打て!ということです。
「とにかくやれ」と指導者が言うのではなく、このような数字的根拠があると選手は納得するのでしょうね。
さらにカリパリさんは合言葉を作ります。それは「Key or 3!」。
「Key」というのは「鍵穴」のことで、制限区域の形が鍵穴に似ているからです。「3」はもちろん3点シュートのこと。ゴール下か3点か、どちらかにしろ、という意味です。言葉としても「キー オア スリー」と韻を踏んでいて、言いやすいです。このあたりがトップコーチ・カリパリさんのセンスを感じますね。
ドライブの極意は「2ギャップ」
いくらドリブルが上手な選手でも、ディフェンスがたくさんいる狭いところでは抜けませんよね。
だから大事なのは「広いスペース」です。
DDMでは「2ギャップ」という言葉であらわしています。
まずは下の図を見てください。
これは通常のスペースです。だいたい5mくらいのスペースです。パスを回すのには良いスペースですが、ディフェンスもすぐ近くにいるので抜けません。
この通常のスペースを「1ギャップ」といいます。ちなみにギャップとは「すき間」という意味です。
1ギャップでは狭いのでドリブルで抜けない。だから倍に広がって2ギャップにしましょう。
サイドの2人は45度ではなく、コーナーまで下がります。これで2ギャップです。
ガードの2人もパイプ(制限区域の幅)から広がって2ギャップにします。
そうすれば、ご覧の通り、スペースが広がって「スロット」がガラガラですよね。ここを割ります。
スロットと3つのゾーン
DDMでは、コート上にユニークな名前を付けて、意味を持たせています。
まず、制限区域の縦のラインを「スロット」と言います。
そしてスロットを3つに分けます
- ゴール下が「ラック」
- 真ん中が「ドラッグ」
- 上が「ドロップ」
このエリアによって、選ぶプレイを明確化します。
- 「ラック」に入ったら絶対にシュートする。
- 「ドラッグ」ではディフェンスを引き付けて、アウトサイドのシューターにパスをする。
- 「ドロップ」で止まったら、他のプレイヤーが動いて合わせる。
ちなみに、もともとの言葉の意味は次の通りです。イメージが分かりやすくなると思います。
- 「スロット」とは、「細長い穴」という意味(自販機のお金を入れるとこみたいに)
- 「ラック」は「棚」。棚に物を入れるように、ゴール下は必ずシュートしよう。
- 「ドラッグ」は「ひっぱる」。ディフェンスを2人ひきつけて、アシストパスをさばく。
- 「ドロップ」は「落ちる」。ドリブルで抜けなければ、ここで止まろう。
実際の動き方 3人のパターン
ボールを#1が持っています。#2と#3がコーナーです。
#1はディフェンスをドリブルで抜き、どちらかのスロットを割ります。ドライブの狙いはスロットです。
- ラックに入ったら、絶対シュート
- ドラッグで止まったら、コーナーにパスして3点シュートを打たせる。
- ドロップで止まったら、周りが動く
ラックとドラッグは簡単ですよね。問題はドロップで止まった時、どう動くか。
それは次の順で考えてください。
- まず、ディフェンスがボールしか見てなければ「バックカット」する
- バックカットできなければ、ボールラインよりも上に上がる(キックアップ)
まずバックカット、だめならキックアップ。
こうすれば絶対にパスを受けられます。
そして続く動きが下の図です。2がキックアップしてパスを受けました。
- #1はパスしたのと同じサイドのコーナーに走り抜ける
- #2はミートしてドライブの準備
- 逆サイドのスロットめがけてドライブ
今度は#2がリングに向かって左のスロットにドライブします。コーナーにいる#3が待っていて、ドロップで止まったら「バックカット or キックアップ」です。
こうすれば「8の字」を描くようにぐるぐるとドライブを繰り返せます。
これがDDMの柱になります。まずはこれを練習しましょう。
4人目の「ユーロカット」
3人の「8の字」を繰り返しているとき、実際にはもう1人、ガードポジションにいます。
図の#4のような感じです。
このとき、4人目の動きとしては、
- 自分のほうにドライブが来たら、背後に入る
- これを「ユーロカット」という
これだけです。
#4の立場で図を見てください。
#1が右のスロットに行くときは、#4はステイです。自分のほうにドライブが来てないからです。
#2がキックアップして、左スロットにドライブが来たら、ユーロカットします。
こうすれば、邪魔になりません。
3人の「8の字」ともう1人は「ユーロカット」です。
5人の完成形 センターの「サークルルール」
最後はセンターです。
センターは「ボールの逆のローポスト」に位置を取ります。
基本的に、ポストアップはしません。そもそもDDMは「センターが弱いから考えられた作戦」ですからね。
センターのルールは簡単です。
- 自分のほうにドライブが来たら「マルを描く」ように動く
- これを「サークルルール」という
私は「うずまき🌀」と言ってます。
ドリブルが来たら、逃げるように、マルを描くように合わせるのです。
そうすればドライブの邪魔になりませんし、ディフェンスがドライブのカバーに行けば、センターがノーマークです。
おわりに 私の体験談から
ドリブルドライブモーション。その内容はよくわかっていただけましたでしょうか。
私は高校生のコーチとして、実際に何が良いのかと言えば、
1対1の能力がないと機能しない
ということだと思います。
「1対1が弱いと使えないってこと? それじゃあうちのチームには無理じゃん!」と思ったあなた。そうではありません。
逆に言えば、
DDMをやれば、1対1が上達する
ということです。
1対1が弱いからDDMを使わないのではなく、DDMを使うから1対1が強くなる。という発想で練習に取り入れてみましょう。
特に「3対3の練習」はオススメです。1対1で攻めて、抜けなければ周りが合わせる。これだけでも練習すればオフェンスの感覚は養われます。
- ボールをもらったらシュートを構える
- ディフェンスが下がっていたら、打つ
- ディフェンスが出てきたら、抜く
- 抜いてカバーが来たら、パスする
これがバスケットボールの基本、1対1の駆け引きです。
どんな戦術を行うにしても、この駆け引きができなければ、絶対に成功しません。
その大事な大事な1対1の駆け引きを養うのに、DDMは最適なシステムなのです。
すべての要素を取り入れてもいいですし、あなたのチームのオフェンスに一部分を取り入れても良いです。
中学生や高校生など育成年代にぴったりなオフェンス、それがドリブルドライブモーションです。
オススメの本
ドリブルドライブモーションについて、わたしなりにまとめた本がこちらです。
アマゾンのアンリミテッドの方は無料で読めます。
記事を最後までお読みくださり、感謝しています!
このブログをお読みのあなたは、きっとバスケの悩み、特にチームづくりのことでいろいろと悩んでいることでしょう。
そんなあなたはぜひ「バスケの大学メルマガ」をのぞいてみてください。
同じように指導に悩み、解決してきたわたしが、チームづくりのノウハウをお伝えします。
最初の1通目で「練習メニューの作り方」という特典動画もプレゼントしてます。